第332章

「うん」

 素っ気なく頷くと、前田南は振り返りもせず、ククに付き添って子供部屋へと向かった。けれど、その頬は微かに火照っていた。

 華奢な背中が視界から消えるのを見送りながら、望月琛は機嫌よく口角を上げた。

 とにかく、南は会社への同行を承諾してくれたのだ。

 これは上々の滑り出しだ。

 彼は絆創膏の巻かれた指を密かに一瞥し、盗み食いをした子供のように無邪気な笑みを浮かべた。

 ……

 翌朝、ククを幼稚園へ送り届けると、前田南と望月琛は同じ車に乗り込み、望月グループへと向かった。

 だが、車を降りた瞬間、本社ビルの下は報道陣で埋め尽くされていた。

 まるで企業機密の匂いでも...

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